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反復性肩関節脱臼(はんぷくせいかたかんせつだっきゅう)
診療内容肩関節のしくみ
肩関節の骨はボールと受け皿の形をしています(図1a)。股関節(図1b)とよく似た形をしていますが、股関節より受け皿(関節窩[かんせつか])が小さく浅く作られています。このため股関節よりも大きく動くことができますが、その反面、肩関節は不安定で全身の関節の中で最も脱臼しやすい関節です。また肩関節は骨よりも靭帯や腱によって脱臼しないように支えられているため靭帯や腱が損傷されると容易に脱臼します。
肩関節は図2aのように筋肉(腱板筋[けんばんきん])によって取り囲まれています。これらの筋肉や上腕骨を外して受け皿(関節窩[かんせつか])を見ると関節窩のふちに関節唇(かんせつしん)がついており、さらに関節包(かんせつほう)へとつながっています(図2b, c)。関節包は関節窩と上腕骨頭を袋状に包んでいる膜で、この一部が厚くなり関節上腕靭帯(かんせつじょうわんじんたい)となっています(図2c)。肩関節を水平に切った断面を下から見ると図2dのようにゴルフボールとティーのような構造になっています。
脱臼ぐせとは?
通常は腕を捻っても図3のように関節上腕靭帯がピンと張って脱臼しないように抵抗しています。あまりにも強い力で捻られたり、事故やタックルなどの強い力で押されると関節窩から関節唇ごと関節上腕靭帯がはがれたり、関節窩自体が骨折して脱臼します。また脱臼したときに関節窩に上腕骨頭が噛み込み陥没骨折(Hill-Sachs病変といいます)を起こします。
一度損傷が起こっても関節唇や骨折が元の位置に戻って治れば問題ありませんが、関節唇がはがれたままになったり、ずれて治ったりすると再脱臼しやすくなります(図4a.b.c.d)し、陥没骨折が大きい場合にも脱臼しやすくなります。特に10歳代の人では80~90%の人が再脱臼(脱臼ぐせ)するといわれています。反対に40歳以上で初めて脱臼した場合には再脱臼する人はあまりいません。脱臼回数が増すごとに受け皿がすり減ったり(図4c)靭帯が傷ついたりするためさらに脱臼しやすくなり、寝返りなどでも脱臼することがあります。残念ながら脱臼ぐせにはリハビリなどの保存的治療はあまり効果がありません。このため繰り返し脱臼し、そのために活動が制限される場合には手術を考慮します。
関節鏡手術とは?麻酔方法は?通常は全身麻酔をかけて手術を行います。腱板断裂の手術後は非常に痛いため、当院では対策として首に細く柔らかいチューブ(直径約1㎜)を挿入し、痛み止めを少しずつ流し続ける持続斜角筋間(じぞくしゃかくきんかん)ブロックという方法を行っています(図5)。チューブは全身麻酔がかかってから挿入しますので挿入時の痛みはありません。超音波断層装置で神経を見ながら行うため神経の近くに正確に挿入できます。チューブは3日~1週間ほどで除去します。図5.ブロックのチューブを挿入したところ手術方法は?
手術方法は?
皮膚に2~4か所、数㎜~1cm程度の切開を行い、直径5㎜ほどの内視鏡(関節鏡)や手術器具を挿入し手術を行います。図6のように(図では黄色い)アンカーという糸のついた船のイカリのようなものを関節窩に打ち込み、糸で損傷した関節唇や骨折を縫合してやや縫い縮めるようにして修復します(鏡視下バンカート修復術といいます)。アンカーは通常抜去する必要はありません。
またラグビーやアメリカンフットボール、スノーボードといった非常に強い力がかかるスポーツでは通常の方法では再び脱臼することがあるため、通常の方法に加えて肩甲骨の一部分である烏口突起という骨を移植して補強を行ったり(図7a)、上腕骨の凹み部分に関節包とその上の腱板を縫い付ける方法を行ったりします(図7b)。烏口突起の移植は、通常は切開手術で行いますが、当院では関節鏡手術で行っています(関節鏡下バンカート・ブリストウ法)。
術後リハビリについて
術後2~3週間ほどは三角布などで固定します。その後肩を動かす訓練を徐々に行います。手術後1ヶ月で90°程挙上(前ならえの状態)が可能となります。2~3か月で軽作業が可能となります。スポーツへの復帰は6カ月程度かかります。リハビリは遅すぎると関節が固くなりますが、術後早期に無理をするとせっかく治した部分がゆるんで、脱臼ぐせが再発することがあるため、特に術後3か月ほどはスポーツなど修復部に強い力が加わることは避ける必要があります。
入院期間は?
通常、入院期間は4~5日程度です。バンカート修復術単独であれば斜角筋間ブロックという局所麻酔で行うことで日帰り手術も可能です。